February 13, 2004

神聖ローマ帝国

 菊池良生『神聖ローマ帝国』(講談社現代新書、2003年)を読む。面白く、短時間で読めた。それは、語り口が巧妙ということもあろうし、高校の時に習った世界史の知識がよみがえり、かつそのころ不思議だったことが氷解したということもあろう。しかし何よりも、千年以上にわたるヨーロッパの歴史(の一断面)を、この不思議な「神聖」「ローマ」「帝国」をめぐる人物列伝の形式で述べたことによると思われる。それが歴史の専門家には余り受けない、ということは、歴史のアマチュア(愛好家)ですらない私のような一読者にとってはどうでもよいことだ。専門家の著者は少しそのあたりを気にしているが。
 皇帝や王、様々な諸侯という土地貴族によって繰り広げられる土地の簒奪がそのまま国家の版図を決めているというのは、いかにres publica(「公共のもの」)という「ローマ」の理念(たとえそれがローマ帝国のものでなかったとしても)からかけ離れているかを示している。政略結婚によって、領土が広がるなどはその最たるものだろう。それを近代以前の迷妄と笑い飛ばすのは易しい。しかし、今は目に見えない形でres publicaという「みんなのもの」を私的に横領しているものがいかに多いか、考えるべきであろう。

投稿者 Vapor Trail : February 13, 2004 12:26 AM