January 12, 2004

仕事に基づいて

 森有正「滞日雑感」より引用。

パリで、私は日本、ことに東京が全く変貌したように人からも聞いていた。しかし帰って来て、決してそうではないことを知った。ただ問題は、新憲法の新しい精神があらゆる活動の基礎であるべき、古い言い方を用いれば、国是というべきものになっていない、ということをも同時に感ぜしめられたことであった。
 私のいうのは、平和主義とか民主主義とかいうことを一つのイデオロギーとして立てて、これを人々の頭にたたき込むという野蛮なことではない。自分の日々の勤労に営々として従事し、その仕事に喜びと誇りとを感ずるということ自体が平和と民主主義との実体であり、それを脅かす恐れのある一切のことに対して抵抗する心構えが平和を守るということであって、それが政治の上に反映されたものが民主的な政治である。

 cf. 二宮正之編『森有正エッセー集成3』(ちくま学芸文庫、1999年)、p. 223。なお、引用文中、太字になっている部分は、原書では傍点(森による強調)。

投稿者 Vapor Trail : January 12, 2004 10:44 PM