December 01, 2003

小説

小説とは、一作ごとにまず書き手自身が成長するためのものだから、そのためにはいま自分のなかにあるものをすべて注ぎ込む必要がある。
 上の言葉は、保坂和志『書きあぐねている人のための小説入門』(草思社、2003年)p. 63からの引用である。この言葉にある「小説」の代わりに、人は自分の仕事を表す語を入れることができるだろう。ニュッサのグレゴリオスのエペクタシスに関連するものが、上の言葉にはある。
 この本は、保坂自身が自らの作品において行っていることをふんだんに利用しながら、小説について述べているものである。小説作法マニュアルのような顔をしていながら、実はそんなものではない。著者は現代の日本を覆っている病的なまでの「功利性信仰」を侮蔑している。それこそ小説の存在価値の一つだ、という主張が展開されていることが、この本の存在価値であろう。 投稿者 Vapor Trail : December 1, 2003 10:20 PM