September 19, 2003

一神教

 宮本久雄・大貫隆編『一神教文明からの問いかけ——東大駒場連続講義』(講談社、2003年)を読む。現代の様々な戦乱・争乱が一神教である三つの宗教に由来すると思われていることをふまえた、時宜を得た出版と言える。
 副題にあるようにいわゆるリレー講義であるため、玉石混交なのはしかたがない。一神教は自らの信仰を絶対視し他者の抑圧へと向かいやすい、といった論調は正しいものではなかろう。多神教世界に生きていても独善的になる危険はいくらでもあるからである。
 もちろん、学ぶところも多かったし、共感するところもあった。それは本書のタイトルが示すように、「問いかけ」に真摯に応えようとする著者たちの態度によるところが大きい。そしてそういった応答はまた別の問いを生み、こうして人は不断の対話に誘われることとなる。事実、他者理解とはそのようなものであろう。
 ただ、デカルトのいわゆる暫定道徳にあたるものを示して欲しかった、とも思う。

投稿者 Vapor Trail : September 19, 2003 11:27 PM