February 25, 2004

古代アテネの民主政

 橋場弦『丘のうえの民主政──古代アテネの実験』(東京大学出版会、1997年)を読了。すでに専門書を上梓している著者が、一般向けに書いた書。それゆえ、叙述は平明で読みやすく、読者の興味がとぎれないようにアテネの民主政の歴史を様々な人物について語り継ぎつつ描くという手法は成功していると言えよう。全6章のうち5章がそのような語りに充てられ、第3章「参加と責任のシステム」のみ原理的な話である。
 「ペリクレスの死後、アテネの民主政は衆愚政となり混迷、ペロポネソス戦争に敗北、そして後にアレクサンドロスにより独立を失う」という歴史の教科書によくある筋書きが必ずしも正しくないことを明らかにしている。民主政のシステムはむしろ前4世紀の方が進化した。責任のシステムが、民主政の二度の転覆といった事態を経て、より整備されたからであるという。
 資格審査をパスすれば誰でも(とはいえ三十歳以上のアテネ市民権を持った男性のみ)公職に就く(役人になる)が、しかし任期中はもちろん、一年の任期を終えた後はいっそう厳格にその責任を問われる。金銭上の不正がなかったかどうか問われ、それ以外の執務についても責任が問われた。より要職にある人物には弾劾裁判にかけられる可能性があった。
 「公務員倫理など信じない」過酷とも映るアテネの民主政は権力を徹底的に分散・細分化し、しかも公職にある者の責任を厳格に問うものであったのだ。

投稿者 Vapor Trail : February 25, 2004 10:27 PM