January 24, 2004

『森有正エッセー集3』より

 『森有正エッセー集3』(ちくま学芸文庫、1999年)を読了。今日は疲れているので、引用を二つだけ。どちらも「日記」からである。

パリという、根柢から人の意志に基づいてできている大都会の真っ只中にあって、僕の同国人はすっかり方向を失い、為すところないようでさえあった。勿論、それは人間としてという意味である。彼らは、この都市の住民を相手に行動し、競争し、交渉し、何ものかを組織する、それだけの力がない。この町の四つ角に打ち棄てられて、自分らの甘ったれた夢に閉じこもって生き続けるだけである。それは、彼らが辛酸きわまりない現実との関係において自らを測ることを知らず、逆に、何事につけても、主観的なお目出度い自己評価のうちにだらしなく逃避しているからに他ならない(p. 371)。

 真の教養は、理解と表現という二つの行為を含むものであるから、逆方向に働き、補いあうこの二行為の結びつきを、常に大切に保持しなければならない。(p. 508)

 二つ目の引用の原文には「理解」と「表現」とに傍点あり。

投稿者 Vapor Trail : January 24, 2004 10:43 PM