January 21, 2004

近代とは?

 森有正「黄昏のノートルダム」より引用。

自然科学、自然の征服の思想の上に立つ近代機械文明、それを端的に表す近代戦、それは、自然への讃歎から出発したギリシア文明とたしかに異質のものだ。それは旧い文明を吸収消化することなく、それを破壊する。古い遺跡は、その文明の生命の持続を後に来る文明にゆずり渡し、自らは平和に自然に還るけれども、近代文明で破壊された旧い文化は、生命の持続を喪失し、死滅し、その不気味な死骸だけをのこす。

 古代哲学と中世哲学の間には連続性が認められるが、中世哲学と近代哲学との間には亀裂がある、とは夙に識者の指摘するところである。この森有正の言葉は、そのことを遺跡に即して述べたものだと言える。
 では現代はどうなのだろう。近代と連続しているのか、それとも近代を破壊するのか。世界の様相は後者を示しているように思われるが。

 cf. 『森有正エッセー集3』(ちくま学芸文庫、1999年)、p. 268.

投稿者 Vapor Trail : January 21, 2004 09:53 PM