October 01, 2003

他人の判定

 あいつらは悪人に決まっている。幸い、私はその誰とも話したことがないが。そう述べるアニュトスにソクラテスは言う。どうやらあなたは占いが出来るらしい。
 よく知らない人について人は軽々しく、しかし断固として判定する。地位や職業、そういったものによって。話したことがなくとも、いや会ったことすらなくとも。なぜこういうことが出来るのか。考えてみれば不思議である。しかし私たちはマスコミに取り上げられる人々をよく知っている気になっている。だから判定できるのかもしれない。
 こういった判定は、あるいはそれほど害がないかもしれない。しかしよく知る人に対して、つまりは私たちの近しい人たちに対してなされる判定はどうだろう。しばしばそれも表層的なものかもしれない。それを打破するためには会話が必要だ。そうも考えられる。
 しかしながら、人が人を知るには対話が必要であるのが真実であるとしても、それは必要条件に過ぎない。ソクラテスのように、人の魂を見分けることが出来るほどの対話術を持っている人のみが、かろうじて人を知ることができるのではないか。

 cf. プラトン『メノン』

投稿者 Vapor Trail : October 1, 2003 11:05 PM