September 28, 2003

定義

 「それは定義の問題に過ぎない」と言われているとき、定義は重要ではないものと思われている。なぜならば、人が勝手に操作可能な概念であると見なされているからである。
 本当の定義はそのようなものではない。アラン(神谷幹夫訳)『定義集』(岩波文庫、2003年)を読んで、そう感じる。もちろん、だからといって、すべての人がある語を定義するのに全く同一の文言でする、というわけではない。表現は多様でありうる。だが、その表現の中に個人の恣意ではどうしようもない、手に負えないものがあるはずである、もしそれが真正の定義であるならば。
 個と普遍の幸福な結びつき。それが定義である、と言えるかもしれない。

 ちなみにアランの『定義集』はみすず書房から森有正訳が既に出ている。森訳はより硬質な文体で、アランにふさわしいように思われる。つまりその思索の具体性と倫理性とにふさわしい。だが残念ながら、森の翻訳はアランの記した語のすべてには及ばなかった。

投稿者 Vapor Trail : September 28, 2003 11:40 PM