May 17, 2004

『森有正エッセー集成4』

 数日前、ようやくといった感じで、二宮正之編『森有正エッセー集成4』(ちくま学芸文庫、1999年)を読み終わる。
 この本に収録されている様々な文章のうち、発表された著作と日記との中間に位置する「アリアンヌへの手紙」が、初めて読んだということもあるのだろうが、印象深い。年下の女性への書簡という形式のゆえであろうか、森の他のエッセーよりも分かりやすく、心情を吐露しつつも日記ほど生ではないため、より親しみやすいものとなっている。誰に向けて語るかが文章を書く上での大きな要素であることを示していると言えよう。
 読書法を引用しておく。

何冊かの同じ本を繰り返し読まなくてはならない。紫式部が「史記」の大変な愛読者であったことをあなたは知っているだろうか。デカルト、パスカルはモンテーニュの読者であり、モンテーニュはモンテーニュでプルタルコスを読み込んでいた、という具合である。こうして、数知れぬ真の読者の目に見えない網が形成されるのである。熱気を帯びたこの共同体に加わらなくてはならない。そのことをわたくしに明かしたのはアランである。

投稿者 Vapor Trail : 10:43 PM

May 10, 2004

郵便配達人

 アランを久しぶりに読む。1908年12月17日のプロポで、題は'Le facteur des postes'。
 アランは郵便配達人に「書かれざる法の番人よ」と呼びかける。大げさな言い方だろうか。そうではない。法を規定することができるのは、書かれざる法を守る人々がいるからこそなのだ。書かれざる法とは、法を法として尊重すべしという態度決定のことである。
 このことを忘れる立法家はしばしば法の何たるかを忘れ、個々の法を忘れる。

投稿者 Vapor Trail : 11:45 PM